大企業・中小企業を問わず、社長を含めた経営陣から「経営者目線を持て」「経営者のつもりで仕事しろ」と言われたことがあるかもしれません。
雇われる側なのに経営者目線を持つというのは、どういうことなのでしょう。サービス残業や休日出勤を強要しているだけ?
社長の真意は別のところにあるかもしれません。
従業員は経営者目線になれない?
「脱社畜ブログ」の日野瑛太郎さんは、経営者目線に関してバッサリ斬っています。
結局、日本の会社で求められる「経営者目線」というのは、会社にとって都合がいい精神論でしかありません。
「今は会社の業績がよくないから、残業代が出ないのも仕方がない。それが会社のためだ」というような「経営者目線」を持つことは大歓迎ですが、具体的な経営戦略の範囲まで社員が口出しするようなことは、求められていないのです。
だいぶご都合主義的な経営者目線だということです。
従業員に「経営者目線を持て」という謎の要求
かなり偏った見方ですが、同調する方も多いでしょう。
ご都合主義的な目線を押しつける経営者は実際にいます。私の知っている範囲ですが、一代で会社を築き上げたワンマン社長に多いですね。
その根底には、「自分は残業代など気にせず働いてきた。休みもなかった。だからこうして社長になって会社を大きくすることができたんだ。」という考えがあると思います。
なぜ経営者目線という話になるのか
「一人ひとりが経営者になったつもりで働いてほしい」と語るのは、従業員のやる気を引き出すためです。ここでいうやる気とは、自ら積極的に行動し売上に貢献する意欲のことですね。
逆に考えると、言われたことしかやらないのはやる気がないということ。残念ながら、これは社長自身に問題があるケースがほとんどではと思います。つまり、人材育成に失敗しています。
従業員の進言をまったく聞き入れず、自分の思うとおりに経営方針を定めて実行させてきた場合、従業員は自ら考えることを止めてしまいます。何を言っても聞いてくれない。だから言われたことしかやらない。
そんな状態になってから「経営者目線を持て」と言っても、誰も聞いてくれないのは当たり前ではないでしょうか。
しかし、「経営者目線を持て」と言うすべての社長がこうではありません。上辺だけくみとれば全部ご都合主義になるかもしれませんが、その裏側まで探ると真意が見えてきます。
社長は応えられる人物を探している
部下をもつようになると、人を育てるというのは本当に大変なことだと思い知らされます。自分と同じ(能力を持つ)人間はいませんし、誰もが上昇志向を持っているわけでもないからです。
社長は全員に「経営者目線を持て」と語るかもしれませんが、実はそのうちほんの一握りの人間に対して語っています。それはリーダーとなりうる人間、ひいては後継者となれる見込みのある人間です。
すべての従業員が経営者になれる資質を持っているわけではない、ということをわかっている上での発言ですね。ここでやる気を出す人間と、やる気のない人間が見抜かれることになります。
ただし、やる気があると認められたからと言って、経営戦略にまで首を突っ込むのは時期尚早です。
まずは戦術を練ることが求められる
会社経営には、「戦略」というシナリオがあり、それを実現するための「作戦」があり、具体的な「戦術」を組み立て、「兵站」がサポートします。
イメージはこのようになります。
会社の規模によって役割が変わってきますが、大まかに言うとこのような感じです。
戦略(社長) | シナリオを描き、実現させるための作戦を部下に委ねる |
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作戦(役員) | 戦略に沿って作戦を練り、部下に指揮する |
戦術(社員) | 作戦に従って具体的な内容を実行する |
兵站(アルバイト) | 実戦のために必要なものを準備する |
「経営者目線」というのは、戦略担当になることではありません。いきなり社長に対して戦略うんぬんを持ち出せば、弾かれるのは当たり前です。
まずは戦術を組み立て、それを指揮することが求められます。ただ、そのためには戦略の概要を正しく認識している必要があり、作戦に基づいていなければなりません。これが社長の言う「経営者目線」ということです。
社長が戦術を決めると現場が混乱する
先ほど「人材育成に失敗した」という話をしました。これは、社長が作戦を通り越して戦術から兵站まで指揮しようとするからです。
そこにはリーダーがいるのですから、リーダーを育てなければいけません。現場に介入して自分が陣頭指揮をとってしまうと歪みが生じることになります。
社長は戦略から兵站まですべてが頭に入っているかもしれませんが、戦術しか知らされていない人間はなぜそのように動くのか、という理由がわかりません。戦略や作戦がきちんと伝わっていないために出てくるズレです。
結果、言われたことしかできない人間に育ってしまいます。
経営者目線を持てと言われたらどうする?
今はシナリオを描く立場にいますが、今日の話は私の体験談の一部です。
「経営者になったつもりで」と言われて、得意になって暴走してしまった経験もあります。戦略とか作戦なんて何も知らなかった青二才。でも、その経験があって経営者目線で働くとはどういうことなのかが理解できた気がします。
もしあなたが経営者目線で働けと言われたら、聞き流すか聞き入れるかのどちらかになると思います。
聞き流す
「聞き流す」のは、冒頭の引用記事で出されている結論と同じになります。
そういうときは、とりあえず「経営者目線を持っているフリ」だけしておいて、適当に話を合わせておくのが得策です。本当に心から経営者目線を持つ必要はありません。
経営者に問題があるケースを考えると、この方法が一概に悪いとは言えません。どこの会社にも、のらりくらりとかわしてヒョウヒョウとしている人がいるものです。本人の性格もあるでしょう。
聞き入れる
「聞き入れる」とは、何でもかんでも言いなりになるということではありません。
なぜ自分にそのようなことを言ってくるのか、その背景には何があるのか、といった経営者目線という言葉の真意を探ります。すべて答えとして教えてくれないかもしれませんが、こちらから積極的に質問すれば時折ポロポロと真意が漏れ聞こえてくるので、それをキャッチして自分の中で再構成していくわけです。
的を射た鋭い質問は「経営者目線に立っている」と思わせる効果があります。社長がそう思ってくれれば、さらに奥深くにあるものが出てくるでしょう。
そこで戦略と作戦に従った戦術を組み立て、指揮をとります。ここまでいってはじめて、戦略(社長の考え)がくっきりと見えてきます。起業を考えているなら、後々役立つ有意義な体験ではないでしょうか。
お金をもらいながら勉強する、ということですね。
まとめ:経営者と従業員は対立関係なのか
雇う側と雇われる側は、決して交わることはありません。お互い歩み寄ることはできても、やはりそこには壁が存在しています。しかし、同じ方向へ歩むことはできます。
歩んでいく先にはお客様がいます。経営者と従業員が対立して、お客様をないがしろにしてはいけません。
明日出勤して社長から「経営者目線を持て」と言われたらどうしますか? 聞き流せばそこで終わりですが、一歩踏み込めば新しい世界が見えるかもしれませんよ。