新卒採用か中途採用かを問わず、新しく人を雇用した場合に「昼から来なくなった」「3 日で消えた」なんていうのはけっこう聞く話かもしれません。
いきなり無断欠勤というのは論外ですが、個人的には辞めるなら早い段階でスパッと辞めてほしいと思っています。
本記事では、入社して間もない試用期間中の退職や解雇にはどのようなルール・法律があるのか、雇う側の立場・雇われる側の立場の両視点から解説しています。
「入ったばかりだけど今すぐ辞めたい(辞めさせたい)」というときの参考になれば幸いです。
試用期間とはなにか
試用期間とは、読んで字のごとく本採用までのお試し期間を指します。企業によって違うものの、だいたい 3 ヶ月前後が一般的です。
法律上は試用期間の設定は必須ではなく、いきなり本採用でもかまいません。
今まで試用期間中に何かあったわけじゃないけど念のため設定している、という場合でも、一応中身をおさらいしておきましょう。
試用期間中といえども雇用契約は成立していますから、会社がその期間中にすぐ解雇できるわけではなく、また労働者もすぐ退職できるわけではありません。双方ともに、会社で定められているルールや労働基準法に則った手続きが必要です。
試用期間中の解雇・退職に関する法律
それでは、試用期間中の解雇・退職に関して、法律でどのように定められているのか見ていきましょう。
雇用側:試用期間中に解雇する場合の理由
まず、会社側の立場から見ていきます。
試用期間中にどうしても解雇を考えるなら、普通解雇や懲戒解雇と同じく以下のような理由が必要です。
- 経歴を詐称していた
- 勤務態度に問題があった
- 身体的もしくは精神的に障害が発生した
- 刑法犯に該当する行為があった
いわゆる「客観的に合理的な理由」で「社会通念上相当として是認される」ものですね。
企業者が、大卒者を管理職要員として採用するに当り、採否決定の当初においてはその者の適格性の判定資料を十分に収集できないところから、後日の調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で試用期間を設け、右期間中に同人の不適格性が認められたときは解約できる旨の特約上の解約権を留保したとき、該解約権の行使は、右留保の趣旨、目的に照して客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と認められる場合に限り許される。
【三菱樹脂事件】労働判例|労働政策研究・研修機構(JILPT)
たとえ試用期間中であっても解雇予告を必要としますし、懲戒解雇以外で今すぐ辞めてもらうなら解雇予告手当を支払う必要があります。
ただし、入社から 14 日以内であれば、解雇予告なしで解雇できます(上述の理由は必要です)。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。
前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。(中略)第 4 号(試の使用期間中の者)に該当する者が 14 日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
労働基準法第二十条・第二十一条
本採用後の正社員を解雇するのと何が違うかというと、解雇理由が多少ゆるくても通る、ということぐらいです。
試用期間だから、という理由だけで解雇すると「解雇権の濫用」にあたる可能性があるので注意しましょう。
労働側:試用期間中に退職する場合の理由
では、労働者の立場で見ていきましょう。解雇ではなく、自己都合による退職です。
理由はさまざまあると思いますが、「思っていた雰囲気と違った」「提示された労働条件と大きく異なっていた」という理由が多いかもしれません。
会社が労働者を解雇する場合は前述のとおりいろいろ制約があってきちんとした理由も必要ですが、労働者が自ら退職するさいは理由を必要としません。極端な話、「一身上の都合」でも通ります。
ただし、労働者は試用期間中であってもその会社の就業規則を守らなくてはいけないため、そこに記されている退職手続方法に沿って進める必要があります。
「退職する場合は退職日の 1 か月前までに申し出なければならない」と定められていたのであれば、退職の意向を伝えてから 30 日後に退職できることになります。
会社の合意が得られない場合や就業規則自体がない場合でも、民法にある「退職を申し出てから 2 週間で雇用は終了する」という法律があるので、どちらにしても即日退職という話にはなりません。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第六百二十七条
あとはその会社の考え方によります。
なお、「入社から 14 日以内であれば、解雇予告なしで解雇できる」のは、雇用側の権利です。14 日以内であれば労働者も自己都合で即日退職できる、というわけではありません。
もし正規の手続きを踏まずにそのまま出勤しない(いわゆる、バックレた)場合は無断欠勤となり、会社から損害賠償を請求される可能性もあります。
新人が辞めたぐらいで大きな損害が出ることはあまりないので、裁判沙汰にするような会社はほぼないと思いますが、日割り計算した給料よりも社会保険等の支払いのほうが大きくなる場合などは請求がくるでしょう。
辞めるときは手順を踏んで円満に退社するのが理想です。
試用期間中にすぐ辞めたいと思ったら早めに意向を伝える
試用期間というのは、会社が労働者の適正をはかるだけではなく、労働者が会社を見る期間でもあります。
入社してすぐに辞めるなんて社会人失格、という考えもありますが、私個人としてはダメだと思ったらすぐに辞めてもらうのが理想的です。そもそも、すぐ辞める人を採用した会社側にも責任があるわけですし。
遊びじゃないので、我慢してもらうところは当然でてきて、もしかするとあと数ヶ月働けばなじんでくるかもしれません。でも、いったんやる気をなくした新人に再び息を吹き込むのは、かなりの労力を必要とします。また、お金もかかります。
冷たいようですが、会社としては辞めたい人間に時間とお金をかけるよりも、新しい人材を探す方向に切り替えたいのです。逆に、よほどのことがない限り、やる気のある人を辞めさせることはありませんけどね。
退職の意思はすぐに伝えよう
退職には就職と同じくらいのパワーがいるかもしれません。
とくに試用期間中の退職であれば、なんらかの問題があって、精神的に参っている状態であることが多いものです。上司の顔を見るのもイヤで出社拒否になるぐらいの人もいます。
しかし、バックレてそのまま、というわけにはいきません。どのような形であれ退職の意思を伝える必要があります。
直属の上司に会って直に退職の意思を伝えるのがベストですが、もしどうしてもというなら最低限電話で連絡をとってください。その後、就業規則どおりの勤務を求められるか、明日から来なくてよいと言われるかはその会社次第です。
まずは「退職したい」という意思をきちんと相手に伝えましょう。話はそれからです。
怒鳴られたりするんじゃないか、と汗が止まらず手が震えてしまうかもしれませんが、意外とすんなり辞めさせてくれることが多いですよ。これも良い経験だと思ってけじめをつけておきましょう。
退職願と退職届の違い
退職の意思を伝えるのは口頭だけでもよいのですが、通常は退職願もしくは退職届を提出します。「願」と「届」の違いは以下です。
- 退職願
-
退職したい旨を伝えるもので、会社側の承認があるまで撤回できる。通常は「退職願」を提出する。
- 退職届
-
退職を決定事項とするもので撤回はできない。すでに退職が承認されているなら「退職届」を提出する。
書式はとくにありませんが、会社にテンプレートがあるならそちらに従って記入してください。
【社労士監修】退職願・退職届の正しい書き方(テンプレート・手書き版・封筒の書き方見本あり) |転職ならdoda(デューダ)
退職願は「退職いたしたくお願い申し上げます」というような文章になりますが、退職届は「退職いたします」という断定になります。
ちなみに「辞表」もありますが、正確には役員が使うもので一般サラリーマンには関係ありません。
今後を考えて円満退社を目指そう
退職後はまた違う会社を探すことになりますが、転職をスムーズにすませるためにも円満退社を目指しましょう。
客観的に見れば試用期間中の退職というだけでマイナス要素ですし、さらに無断欠勤のうえ必要な手続きも行わず辞めたとなればいつどこにその情報が伝わるかわかりません。
前職照会をするような会社は少なくなりましたが、業種が違っても意外なところでつながりがあったりするものです。
退職は新しい未来を作るためのステップと考えてもよいと思います。終わりではなく始まりですから、いきなりつまづかないよう注意したいですね。そしてできればじっくりと会社を見定めて、次は試用期間中に辞めなくてすむようにしてください。
まとめ
ポイントを整理しておきましょう。
雇用側
- 試用期間中でも即日解雇はできない(ただし14日以内なら可能)
- 解雇には正当な理由が必要
労働側
- 自己都合による即日退職はできない
- 退職に理由は不要だが意思表示はできるだけ早く
どんなにイヤな職場でも根性だけで勤め上げるのはひとつの正解かもしれませんが、自分と家族を大切にしないと良い仕事はできません。
試用期間中の退職は「失敗」かもしれませんが、たとえそうでも今後は繰り返さなければよいのです。自分の未来を決めるのはあなた自身です。